大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)175号 判決 1969年9月16日
控訴人
東洋シャッター株式会社
代理人
藤井信義
被控訴人
株式会社関西鋼業製作所破産管財人
仁藤一
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実<省略>
理由
当裁判所も被控訴人の本件予備的請求はこれを理由あるものと認めるものであつて、その理由は左に付加するほか原判決理由欄記載のとおりであるからこれを引用する。
控訴人は執行行為の否認については破産者の通謀加巧のあつたことを要し、破産者の行為の全然ない場合はこれを否認し得ないと主張するが、破産法第七二条にいわゆる破産者の為したる行為とあるはこれを同法第七五条と関連させて考察するときは、破産者の現実的行為に限定すべきものではなく、これと同一視し得べき場合を含むと解せざるを得ない。何となれば、右七五条にいわゆる執行行為に基づく場合にはむしろ破産者の意思が関与せざるを通例とするに拘らず、同条がなおこれを否認権行使の対象となし得るものとしながらこれに控訴人所論の如き破産者の意思の関与を要件としていないからである。しかして、如何なる場合を右破産者の行為と同一視し得べき場合とみるべきかは破産法第七二条各号により、それぞれ異るものというべく、同条第二号は、破産者行為が客観的に総債権者の平等弁済を害する場合に破産者の意思に関せず一律に否認することを得しめることを目的とするから、強制執行によつて私法上の弁済たる効果を生じた場合は、ここに同号にいわゆる債務消滅に関する行為ありたるものとしてこれについて何ら破産者の通謀加巧その他の事由を必要とせず否認し得るものというべきである。
控訴人引用の判決ならびに昭和三七年一二月二六日最高裁判所第一小法廷判決(民集一六巻一二号二三一三頁)は執行行為を破産法第七二条第一号により否認するためには破産者が強制執行を受けるについて害意ある加巧をなしたことを要する旨判示し、また昭和四三年一一月一五日最高裁判所第二小法廷判決は破産申立後破産者が期限の利益を放棄し、債権者の代物弁済一方の予約に基づく予約完結権の行使を誘致し、これによつてなされた債権者の一方的予約完結の行為を同条第二号で否認し得ると判示しているが、前二者の判決は、いずれも、もともと破産者の害意あることを要する同条第一号の場合の事案であるから、これを右害意あることを要しない本件第二号の場合の判例とすることは適切でなく、また後者の判決も代物弁済一方の予約に基づく予約完結権の行使を破産者の行為と同一視すべき場合の一事例を判示したものと解すべく、この判決が直ちに同条第二号の行為が強制執行に基づきなされた場合にもすべて破産者にこれを誘致するような行為があつた場合に限ることまでを判示したものとは解せられない。よつて控訴人引用の判例はいずれも本件に適切でなく、所論はこれを採用することができない。されば、被控訴人の本件予備的請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないので民事訴訟法第三八四条、 第八九条を適用して主文のとおり判決する。(村上喜夫 賀集唱 潮久郎)
<参考・原審判決>
(大阪地裁昭和四三年(ワ)第三九三五号、否認及び売掛代金請求事件。同四四年一月三〇日第一一民事部判決)
主文
被告東洋シャッター株式会社は原告に対し別紙目録記載の債権が破産財団に属することを確認する。
原告の被告東洋シャッター株式会社に対するその余の請求部分を却下する。
被告三井建設株式会社は原告に対し金八七二、五六九円及びこれに対する昭和四三年七月一七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は第三項に限り仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告東洋シャッター株式会社が昭和四三年二月二九日大阪地方裁判所昭和四三年(ル)第八二三号、同(ヲ)第八五六号債権差押及び転付命令によりなした別紙目録記載の債権の転付を否認する。被告三井建設株式会社は原告に対し金八七二、五六九円及びこれに対する昭和四三年七月一七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに金員支払を求める部分につき仮執行の宣言を、予備的に「被告東洋シャッター株式会社は原告に対し別紙目録記載の債権が破産財団に属することを確認する。」との判決を求め、その請求原因として、
一、株式会社関西鉱業製作所(以下破産会社という)は金属製品の製作加工販売修理を業とする会社である。昭和四〇年頃から業績悪化し、同四二年九月二一日不渡りを出すに至り、同月二三日銀行取引停止処分をうけ一般的に支払を停止した。そして同年一一月二五日破産申立をうけ昭和四三年三月七日午前一〇時破産宣告がなされ原告が破産管財人に選任された。
二、破産会社は被告三井建設株式会社(以下被告三井建設という)に対し請負残代金八七二、五六九円の債権(登利菊北店の工事代金)を有していた。
被告東洋シャッタ株式会社(以下被告東洋シャッターという)は昭和四三年二月九日破産会社に対する大阪地方裁判所昭和四二年手(ワ)第三三八一号約束手形金請求事件判決の執行力正本に基き前記請負残代金の内金四二五、三四〇円(別紙債権)を差押え転付する旨の債権差押、転付命令(当庁昭和四三年(ル)第八二三号、同(ヲ)第八五六号)をえて、これが執行をなした。
三、右債権転付は破産会社の支払停止又は破産申立后になされた債務消滅に関する行為であるから破産法第七二条第二号、 第七五条により否認する。
四、被告三井建設は、第二項の債務の存在を認めるも、前記転付命令があること及び被告東洋シャッターからの債権仮差押があることを理由に支払いをしない。しかし転付命令は否認され、仮差押は破産法第七〇条第一項によりその効力を失つている。
五、よつて、被告東洋シャッターに対し前記転付を否認し、予備的に別紙目録記載の債権が破産財団に属することの確認を求め、被告三井建設に対し右債権額金四二五、三四〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年七月一七日から支払ずみまで商事法所定年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。と述べ、立証<略>
被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として
被告東洋シャッター訴訟代理人において、請求原因第一、第二項の事実は争わない。第三項第四項の事実は争う。
原告が否認する債権は破産宣告日(昭和四三年三月七日午前一〇時)より前に転付により消滅している。右転付は破産会社の行為でないから否認することはできない。と述べ、
被告三井建設訴訟代理人において請求原因事実は全部認めると述べ、
被告ら訴訟代理人は甲号各証の成立は認めると述べた。
理由
(被告東洋シャッターに対する請求)
請求原因第一、第二項の事実は当事者間に争がない。
同第三項の事実(支払停止又は破産申立のあつたことを知つた点を含む)は<証拠>及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
被告の主張事実は抗弁事由となし難い。
そうすると否認権の行使により、別紙目録記載の債権は破産財団に帰属するものといわねばならない。
(被告三井建設に対する請求)
請求原因事実は当事者間に争がない。
(結論)
よつて、原告の被告東洋シャッターに対する請求は予備的請求を認容し、本位的請求は判決の主文に宣言するまでもないので不適法としてこれを却下し、被告三井建設に対する請求を認容すべきものとし、民事訴訟法第八九条、 第九二条、 第九三条を適用し、主文のとおり判決する。(惣脇春雄)